出張版☆家づくり図書館~間取りのヒミツ~
こんにちは、設計士の白岩です。
前回のスケールに続き、設計士の七つ道具の一つ「トレペ」をご紹介しながら、「良い間取り」のヒミツを業界の裏話付きでお教えしちゃいます☆
写真ではちょっとわかりづらいでしょうか。。
この透明の紙が「トレーシングペーパー」通称「トレペ」です。
私たちは設計図の検討に使いますが、皆さんも子供の頃「写し紙」としてアニメのキャラクターなどを描くのに使った経験がある方も多いと思います。
私たちは設計の依頼を受けるとまずは敷地を見に行き、陽の入り方、風の流れ、周囲の家の位置、見晴らし、道路の幅などを確認します。
そして敷地の図面と周囲の情報を正確に描いたら勝負開始です。
その敷地図の上にこの紙を重ね、あーでもないこーでもないと間取りを描いては重ね、描いては重ね、、、、を繰り返していきます。
その結果がこれ。
もはや、どれが正解か分かるのは世界で私だけです。笑
設計事務所での修業時代、一つの依頼に対し1000枚図面を描けと無茶ぶりをされました。。。
素直だった私は真面目にがんばりましたが500枚くらいが限界で、頭にきて半分コピーして提出しました。笑
その時の師匠のセリフは「お、500枚もいったの?」でした。。。チクショー!!!
師匠の悪口はいくらでもあります!
模型を造れば甘いとか言われて目の前でぐちゃぐちゃに踏みつぶされ。
間違った図面を描いたら床にジュータンのようなロールの紙を広げられ、徹夜で1/1の原寸図を描かされたり。。
建築家ってひょろっとしてて貧弱な文科系に見える方が多いですが、実はかなりの体育会系です。。
でも多分、そういうドSな仕打ちを乗り越えないと日本の頂点はとても見えてこないのだと、耐え切れず脱落していった同期の仲間たちを見ていると実感します。
思い出してイライラしてきたので、余談はこれくらいにして。笑
ちなみに、このマス目が入った方眼紙も便利で良く使われるのですが、私はこれを使って設計していたら師匠にその場で破かれました。。。
なぜかわかりますか?
この方眼紙は9.1ミリのマス目の物もちゃんとあって、1/100の図面を描く時にそれを使うとちょうど2マスで1畳分になります。とても設計しやすいです。
そのままなぞってパズルのように組み合わせていけば間取りが出来上がるのですから。
でも、それが業界のダメな通例だったのです。
実例でお見せします。
これはマス目に従って描いた個室です。
自然と1マスの倍数で部屋が出来ていきます。この場合6帖の個室が出来上がりました。
ではこちらもご覧ください。
先ほどの個室と全く同じ大きさの、ベット・机・本棚・押入れが入って4.7帖です。
その差、1.3帖。
金額にして、45万5千円といったところです。
二部屋もあればあっという間に差額100万円です。。
これが家全体になったらいったい何百万円になるのか。。。
図面を破いた後の師匠のセリフは、
「おまえが手抜きしてなぞったその線に、お客さんがいったいいくら払う事になるのか分かってんのか?」
でした。
最後に業界の裏話を少し。
私がある大手ハウスメーカーで商品開発のお手伝いをしていた時、あるシリーズ商品の間取りの開発を頼まれました。CMでもガンガンやっている、とても名前は出せない超有名な商品です。
私がマス目は使わずにミリ単位で丁寧な経済設計をしていると、上司の設計部長からこう言われました。
「白岩君、グリッドプランにしてくれるかな」
グリットプランとは、先ほどの910ミリのマス目の倍数で描いていく間取りの事です。
私は自分の設計理念に基づき、反抗しました。笑
それから言い合う事、小1時間。
生意気な若造にかなり頭にきていたようで、上司がついに本音を叫びました。
「いいから言う通りにやれ!いちいち住み手に合わせていたら手間がかかるんだ!家なんて出来たら出来たでそれに合わせて住むもんだ!ミリ単位で細かい設計したってどうせ素人にはわからん!」
周りはシーンとし、私はポカーンとした後、上司の胸ぐらを掴んで周りに抑えられ、
「こんなクソ会社二度と来ねぇ!!」
と言って私はその場で辞めました。笑
その人は今もいるのかは分かりませんが、もちろんそんな人ばかりではありませんし、グリットプランにもメリットはあります。
910ミリというグリットサイズは、尺貫法という東南アジアでは広く使用されている日本古来の寸法単位です。
アメリカからメートル法が入ってくるまでは、建築に限らず日常のあらゆる長さの単位は尺貫法でした。
その尺貫法で910ミリは3尺という単位で表され、木造建築業界では木材のサイズや壁材、床材など家を造るための様々な材料が未だにこの尺貫法のサイズで造られているため、その倍数で設計すれば材料に無駄が出ないのです。
どんな物事にも必ずメリットとデメリットが存在します。
要はバランス。使い分けですよね。
そしてその使い分けのための判断基準は、誰が何と言おうと私は、
「住む人にとって、この場合に、どの選択が最善か」
だと恩師に教わりましたし、これからもその信念を貫き、次の世代に伝えていくつもりです。
師が私にそうしてくれたように。